新たなアーティストが次々と成功を収める一方で、80年代に活躍したベテラン勢も素晴らしい作品を発表している。コアなヒップホップファンから絶大な人気を誇るNice & Smoothの2ndアルバム『Ain’t A Damn Thing Changed』(9月17日発売)では、Greg NiceとSmooth Bのコンビネーションがさらに強固になり、「Hip Hop Junkies」や「Sometimes I Rhyme Slow」といったシングル曲は全てがクラシックだ。
Nice & Smooth「Hip Hop Junkies」
Nice & Smooth「Sometimes I Rhyme Slow」
Nice & Smooth「Cake & Eat It Too」
Nice & Smooth「How To Flow」
Public Enemyの4枚目のアルバム『Apocalypse 91… The Enemy Strikes Back』(10月1日発売)では、メッセージ性など彼らのストロングなスタイルを維持しながら、自らの代表曲「Bring The Noise」をAnthraxと共にリメイクするなど新たな試みを行い、しかもそれが見事に成功している。
Public Enemy「Can't Truss It」
Public Enemy「Shut Em Down」
Public Enemy「Bring The Noise feat. Anthrax」
Heavy D & The Boyzの3rdアルバム『Peaceful Journey』(7月2日発売)には、Teddy Riley、Marley Marlという前作『Big Tyme』からの布陣に加えて、Pete Rockがプロデューサーとして新たに参加。なかでもTeddy Rileyがプロデュースを手がけた「Now That We Found Love」と「Is It Good To You」は大ヒットし、「Is It Good To You」はTammy Lucasが歌うバージョンもリリースされ、こちらも非常に人気が高い。
Heavy D & The Boyz「Now That We Found Love」
Heavy D & The Boyz「Is It Good To You」
Heavy D & The Boyz「Don't Curse」
ヒップホップ x 映画
そのTammy Lucas版の「Is It Good To You」が収録されているのが、映画『Juice』のサウンドトラックアルバム(12月31日発売)だ。Vol.3でも紹介したS.O.U.L.(Sound Of Urban Listeners.)というレーベルからリリースされたこのサントラにはNaughty By Nature、EPMD、Big Daddy Kane、Cypress Hillなどさまざまなヒップホップ/R&Bアーティストの楽曲を収録。アルバムトータルとしてのクオリティも非常に高く、なかでも映画のテーマ曲でもあるEric B. & Rakimの「Juice (Know The Ledge)」の格好良さは抜きん出ている。ちなみに2Pacが映画のメインアクトの一人として出演しており、映画のストーリーも非常にヒップホップ色が強い。
Eric B. & Rakimの「Juice (Know The Ledge)」
ラッパーが関わった映画として、もう一つ上げておきたい重要作がJohn Singletonが監督を務めた映画『Boyz N The Hood』で、こちらにはIce Cubeが出演。その後、俳優や映画監督としても活躍することになる彼の映画デビュー作でもある。『Boyz N The Hood』のサウンドトラックアルバム (7月9日発売)も非常に充実した内容で、なかでもCompton’s Most Wantedの「Growing Up In The Hood」は、映画のストーリーともリンクしたメイントラック的な存在だ。さらにほぼ同じタイミングで同曲を収録したCompton’s Most Wantedの2ndアルバム『Straight Checkn ‘Em』(7月16日発売)もリリースされている。
Compton's Most Wanted「Growing Up In The Hood」
サウスヒップホップのレジェンド=Geto Boys
イーストコースト、ウェストコースト以外のヒップホップシーンも徐々に活発化していくなかで、アメリカの中部、南部エリアからも名盤が生まれている。なかでもサウスのヒップホップシーンのレジェンド的な存在であるテキサス州ヒューストンを拠点とするGeto Boysの3rdアルバム『We Can’t Be Stopped』(7月9日発売)は非常に重要な作品だ。病院内で撮影されたジャケットカバーのインパクト以上に、サウス独特のやさぐれた空気感は他のエリアのアーティストとは明らかに異なるもので、シングルヒットもした「Mind Playing Tricks On Me」には彼らの魅力の全てが詰まっている。さらにその3ヶ月後にGeto Boysのメンバー、Scarfaceの1stソロアルバム『Mr. Scarface Is Back』(10月8日発売)もリリースされている。
Geto Boys「Mind Playing Tricks On Me」
Scarface「A Minute To Pray & A Second To Die」
アメリカ中西部、ミシガン州フリントからはMC Breed & DFCの1stアルバム『MC Breed & DFC』(8月13日発売)がリリースされ、同アルバムからはOhio Playersの「Funky Worm」をサンプルした「Ain’t No Future In Yo’ Frontin’」がヒット。この曲一発で彼は全米のヒップホップファンから知られる存在となる。
MC Breed & DFC「Ain't No Future In Yo' Frontin'」
他にも数々のベテランアーティストの作品がリリースされており、簡単にタイトルだけ列挙しておきたい。
・Slick Rick『The Ruler’s Back』(7月2日発売) ・DJ Jazzy Jeff & The Fresh Prince『Homebase』(7月23日発売) ・Poor Righteous Teachers『Pure Poverty』(9月3日売) ・Queen Latifah『Nature Of A Sista』(9月3日発売) ・MC Lyte『Act Like You Know』(9月17日発売)
Slick Rick「I Shouldn't Have Done It」
Slick Rick「It's A Boy」
DJ Jazzy Jeff & The Fresh Prince「Summertime」
Poor Righteous Teachers「Shakiyla」
Poor Righteous Teachers「Easy Star」
Queen Latifah「Fly Girl」
MC Lyte「Poor Georgie」
Biz Markieサンプリング訴訟騒動
最後に取り上げたいのが、Biz Markieの3rdアルバム『I Need A Haircut』を巡るサンプリング訴訟騒動だ。このアルバムの収録曲「Alone Again」が、Gilbert O’Sullivanの同名曲(「Alone Again (Naturally)」)を無許可でサンプリング使用したとして、Biz Markieおよびレコード会社が訴えられ、最終的にはアルバムの回収および、「Alone Again」を抜いた形で再リリースが行われた。ヒップホップがビジネス的にも大きな存在となっていった結果起きた、ある意味、必然的な出来事でもあるのだが、以降、サンプリングのクリアランス料の高騰化なども起き、ヒップホップのサウンドプロダクションに対して大きな影響を与えることになる。