C.r.e.a.m. Team Records第3弾シングル「M.O.V.E.」ライナーノーツ

C.r.e.a.m. Team Records第3弾シングル「M.O.V.E.」ライナーノーツ

2023年1月18日より発売のC.r.e.a.m. Team Records第3弾シングル「M.O.V.E.」(DJ MITSU THE BEATS feat. Frank Nitt , Guilty Simpson)。前回同様、1996年よりライターとしての活動をスタートし、ヒップホップ専門誌『blast』などを中心に執筆した大前 至(おおまえ きわむ)氏に同曲のライナーノーツを依頼した。

<本文はじまり>

90年代ヒップホップをテーマに掲げ、DJ MITSU THE BEATSがエグゼクティブ・プロデューサーを務めるレーベル、C.r.e.a.m. Team Records。これまで、DJ MITSU THE BEATS自身のプロデュースでShing02とKOHEI JAPANをフィーチャーしたシングルをそれぞれリリースしてきたが、第3弾リリースとなる今回は初の海外ゲストとして共にデトロイト出身であるFrank Nitt(以下、Frank)とGuilty Simpson(以下、Guilty)の二人をゲストに招聘。最強な3人のタッグによる楽曲「M.O.V.E.」が完成した。

ヒップホップ・デュオ、Frank N Dankとしての活動でも知られるFrankと、片やソロアーティストとして活動しているGuiltyだが、彼らは単に同じデトロイト出身というだけでなく、伝説的なプロデューサー、J Dillaと繋がりが深いという共通項があるのは、コアなヒップホップファンであればご存じだろう。彼らと同じくデトロイト出身であり、90年代半ばから2000年代にかけて数々のヒップホップクラシックを生み出しながら、2006年に32歳という若さで亡くなったJ Dilla。FrankがJ Dillaに初めて出会ったのがFrank自身がまだ12歳の時(注:J DillaはFrank Nittの一つ年上)で、Frank N Dankというグループ名の名付け親もJ Dillaだったという。

・「Frank n Dank」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

https://en.wikipedia.org/wiki/Frank_n_Dank

Jay Deeという名で活動しながら、すでにプロデューサーとしてヒップホップファンの間では知られる存在であった彼が、2001年に自身の名義(=Jay Dee aka J Dilla)リリースした初のアルバム『Welcome 2 Detroit』の収録曲「Pause」にFrank N Dankはゲスト参加している。さらに2003年にリリースされたJ DillaとLAのプロデューサー、MadlibとのユニットであるJaylibのアルバム『Champion Sound』のメイントラックの一つであった「McNasty Filth」にもFrank N Dankはフィーチャーされている。

Frankを知ったのは、やっぱりJ Dilla『Welcome 2 Detroit』だと思います。それから、Jaylibの「McNasty Filth」でのラップがすごく好きで、すごく印象深いですね。ちなみにFrank N Dankの曲で今までで一番プレイしたのが「Push」っていう曲で。12インチシングルがヨーロッパ(ドイツ)リリースで、日本では入手困難だったので個人輸入で手に入れて。J Dillaがプロデュースしているんですけど、このビートにもすごく影響を受けて。今でもプレイし続けている、僕にとって重要な曲です。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

Frank N Dankと同じく、GuiltyもJaylib『Champion Sound』にフィーチャリングされており、参加曲「Strapped」は彼のラッパーとしてのキャリアの中でも最初期の作品の一つだ。その後、GuiltyはJ Dillaが亡くなって以降にリリースされたアルバム『The Shining』や『Ruff Draft』にも参加するなど、デトロイトの注目ラッパーとしてその名を広めていき、2008年にはついに1stアルバム『Ode To The Ghetto』をStones Throwからリリース。当然、このアルバムにもJ Dillaのプロデュース曲(「I Must Love You」)が収録されている。

Guiltyは最初にJ Dilla関連のアーティトとして知って。Guiltyのアルバムも格好良かったんですけど、僕が一番好きなGuiltyの曲がM.E.D.と一緒にゲスト参加していたQuakersの「Fitta Happier」(2012年リリースのアルバム『Quakers』収録)で。PVもめちゃくちゃ格好良いんですけど、彼のハードにスピットするラップにヤラれました。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

ちなみにGuiltyはMadlibとのタッグでStones Throwから『OJ Simpson』を2010年にリリースするのだが、このアルバムにはFrankが「Scratch Warning」という曲でゲスト参加しており、おそらくこの曲が二人の初共演曲と思われる。
 敬愛するプロデューサー、J Dillaからの流れでFrankとGuiltyという二人のラッパーを知り、純粋にファンでもあったというDJ MITSU THE BEATS。実は今回の共演以前にも彼らとは少なからず関わりがあったという。

2000年代後半だと思うんですけど、LAへ行った時にGuiltyと曲を作れるっていう話を聞いて。ちょうどGuiltyのアルバムが出たりして、盛り上がっていたタイミングだったので、僕自身はすごくやりたかったんですけど。でも、僕が全てのイニシアチブを取っていたわけじゃなかったので、その時は実現はしなくて。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

一方でFrankに関しては、プロデューサーとしてすでに楽曲での共演を果たしている。

多分、彼らが日本のビットメーカーとやりたいみたいな話で僕に声がかかったと思うんですけど。それでトラックを提供して出来たのが、2019年にリリースされたFrank N Dankのアルバム『St. Louis』に入っている「St. Louis (The Block)」っていう曲で。それがFrankとの初めてのコラボです。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

DJ MITSU THE BEATSが手がけた曲がアルバムのタイトル曲になったということは、それだけ彼らがDJ MITSU THE BEATSのビートを気に入ったということの証でもあるだろう。この時に出来た両者のコネクションが、今回のコラボレーションにも繋がっていく。

インスタか何かでFrankとGuiltyが二人で一緒に曲作りをしているのを見て、「この二人が今も繋がっているならば、一緒に(曲作りを)出来るかな?」って思って。それでFrankと、それからFrank経由でGuiltyにもお願いしてみようって。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

「M.O.V.E.」を一聴して思うのは、この3人がある意味、J Dillaという人物がきっかけで繋がったのにも関わらず、曲の質感はそれとは異なるタイプであるということだ。

90年代ヒップホップっていうテーマがあるので、逆にJ Dillaらしさを出しちゃうと2000年感が出ちゃうっていうか。J Dillaっぽくなってもしょうがないし、90年代ヒップホップっていう縛りがあることで、逆に自分らしさが出て良かったなと思います。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

サンプリングで作られながら、躍動するライヴ感のあるビートはこの曲の大きな魅力だろう。

90年代のテイストを出したいっていうところで、ピアノを使ったジャジーなものにしようって考えて。ただ、ジャジーと言っても柔らかい感じではなくて、もっと尖ったテイストのジャズのイメージ。そういうビートが二人のラップとも合うだろうなと思って。ただ、ピアノの跳ね方とかドラムの感じとかもそうですけど、90年代そのものではなくて、今現在のヒップホップとも融合するようなものにしました。こういうトラックを最近はあまりやってなかったものであるし、逆に90年代に自分が作っていたビートにも通ずるものがありますね。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

1バース目がFrank、2バース目をGuiltyがラップし、「M.O.V.E.」というタイトルがキーとなって、二人はフリースタイル的にライム乗せながら、スピーディーかつスリリングに突き進んでいく。

最初、Frankのラップから始まって、そこでもうバッチリだなって思いましたね。Guiltyのラップも格好良く仕上がって。二人のリリックに関しても、良い意味でその場の勢いでラップしている感じが伝わりますし、そういうところがなんかヒップホップならではっていうのを感じます。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

さらにDJ MITSU THE BEATSは、この二人のラップに“デトロイト”の空気を強く感じるという。

どういう部分がっていうのは説明できないんですけど、この二人からはめちゃくちゃデトロイトを感じますね。それは彼らの曲を昔から何度も聴いていて、僕の中で勝手に刷り込まれているイメージなのかもしれないですけど。昔、一度だけデトロイトに行った時に、あるパーティでDJをやって。その頃、デトロイトは自動車産業が完全に落ち込んで、街自体が廃墟みたいになっている時で。ビルの何階かでDJをしたんですけど、薄暗い中でお客さんも20人ぐらいしかいなくて。ビルの窓から外を見ても、誰も歩いてない。そんな中で、かかっている曲はめちゃくちゃ格好良い。そこで受けた影響がすごく大きくて、その時の記憶は今も抜けていない。それが僕の思うデトロイトのイメージですね。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

仙台とデトロイトという二つの街が繋がって生まれた今回の「M.O.V.E.」。彼らが東京やNY、LAといった都市の出身ではないからこそのグルーヴがこの曲の中には宿っているようにも思う。また、この曲をきっかけに、DJ MITSU THE BEATSが彼ら二人、あるいはさらに他のアーティストも交えて、国境を超えたコラボレーションが展開していくことを期待したい。

<本文終わり>

文:大前 至(おおまえ きわむ)

音楽ライター。1996年よりライターとしての活動をスタートし、ヒップホップ専門誌『blast』などを中心に執筆。2003年よりロサンゼルスへ拠点を移し、Stones Throwなどアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを軸に取材活動を行いながら、音楽だけでなく、ファッション、アートなど様々な分野の執筆を手がける。2015年に日本へ帰国し、現在も様々な雑誌、ウェブメディアにてヒップホップを中心としたライター活動を行なう。