C.r.e.a.m. Team Records第一弾シングル「Memento」ライナーノーツ

C.r.e.a.m. Team Records第一弾シングル「Memento」ライナーノーツ

2022年6月15日より発売のC.r.e.a.m. Team Records第一弾シングル「Memento」(DJ MITSU THE BEATS feat.Shing02)。発売に先駆けて、1996年よりライターとしての活動をスタートし、ヒップホップ専門誌『blast』などを中心に執筆した大前 至(おおまえ きわむ)氏に同曲のライナーノーツを依頼した。

<本文はじまり>

90年代ヒップホップをテーマに掲げるレーベル、C.r.e.a.m. Team Recordsの第一弾としてリリースされるシングル「Memento」。今年(2022年)4月にC.r.e.a.m. Team Recordsのエグゼクティブ・プロデューサーに就任したDJ MITSU THE BEATSがトラックを手掛け、Shing02をフィーチャリングゲストとして迎えたこの曲は、C.r.e.a.m. Team RecordsからリリースされるDJ MITSU THE BEATS自身によるプロデュースアルバムの第一弾シングルでもあり、このプロジェクトの今後を占う上で非常に重要な意味を持つ作品である。

”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records

仙台を拠点とするヒップホップグループ、GAGLEのメンバーであり、プロデューサーとして様々なアーティストの作品に携わり、国内外の音楽ファンから高い評価を得るなど、日本のヒップホップシーンの中で確固たる地位を築いてきたDJ MITSU THE BEATS。

■「GAGLE」公式サイト

https://gagle-official.com/

片や日本語と英語によるバイリンガルラッパーのパイオニアとして、90年代から北カリフォルニア・ベイエリアのヒップホップシーンにて活動を開始し、これまでソロや様々なプロデューサーとのコラボレーションによって通算10枚以上のアルバムを発表しながら、現在はハワイを拠点にしながらワールドワイドに活躍するShing02。

■「Shing02」公式サイト

https://www.e22.com/shing02/

アーティストとしてこれまで全く異なる道を歩んできた二人であるが、日本人としてのヒップホップを追求してきたという意味では共通する部分は実に多い。ちなみに、これまでのDJ MITSU THE BEATSとShing02の共演といえば、2014年にリリースされたGAGLEの通算5枚目のアルバム『VG+』に収録された「CA LA MODE」が知られているが、『VG+』の次にリリースされたアルバム『Vanta Black』の収録曲である「Flow」にShing02が参加したリミックスバージョンというのも存在している。この曲は正式にはリリースされておらず、非売品のCDのみに収録されたGAGLEファン垂涎のレア曲なのだが、両者の共演はこのリミックスを含めて、これまでたった二度しか行なわれていない。

今回の原稿を執筆するにあたって、DJ MITSU THE BEATSとShing02から直接話を聞いたのだが、二人の言葉からは、実が彼らが共演するずっと以前から、お互いにファンであったことが伝わってくる。

シンゴさん(Shing02)を初めて聞いたのは、Mary Joyのコンピ『Tags Of The Times』(1998年リリース)に入っていた曲(「A Day Like Any Other Remix (A Day Like No Other)」)で。バイリンガルでラップしてて、「この人、めちゃくちゃ格好良いな」って思いましたね。その後はやっぱり「Luv(sic.)」とかも印象深いです。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS
2000年代前半に初めてGAGLEの曲を聞いて。オーソドックスなんだけども、すごく洗練されているって思いましたね。格好良くて、綺麗なビートを作る人なんだなっていうのがミツ君(DJ MITSU THE BEATS)に対する第一印象で。だから「一度、会ってみたいな」っていう一方的な思いは、ずっとありました。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
Shing02

実際に両者が直接会ったのはずっと後のことで、Shing02がライヴのために仙台を訪れたタイミングなどに会うようになり、徐々に関係を深めながら、前述のアルバム『VG+』への参加などにも繋がっていく。さらにその延長上に今回のシングル「Memento」があるというわけだ。

C.r.e.a.m. Teamで90年代のヒップホップをテーマに作品を作るという話になって、自分の中で一緒にやりたいラッパーの候補としてすぐに名前の挙がったのがシンゴさんでした。単にレジェンドなラッパーというだけじゃなくて、オリジナリティが高くて、あんなスタイルで出来る人は他にいない。今回は海外にもアピールしたいっていう思いもあったので、英語でやって欲しいってお願いしました。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

深い奥行きの中で鳴り響くピアノの音色に、一見シンプルながらも絶妙に心地よく絡んでくるビートで構成された「Memento」のトラック。DJ MITSU THE BEATSはShing02がラップするイメージを思い浮かべながら、このトラックを作り上げたという。

90年代のテイストのあるドラムの使い方をしつつ、今の自分の好きな感じのピアノとかを上手く混ぜれたらなって思って作りました。90年代のヒップホップがテーマではあるけれど、90年代のヒップホップをそのまま再現しようとはしてないので。90年代のヒップホップをリスペクトしながら、今の技術を上手く取り入れて。シンゴさんならばちゃんとしたテーマで来るっていうのは分かっているので、それをサポート出来るようなトラックになるように意識しました。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS
ミツ君からビートが送られてきて、二つ返事で「やります」って答えて。絵を見て、題名を決めるような感じで、ビートを聞いて“Memento Mori”っていう言葉が浮かんできて。そういう音から来た“死”のイメージと、あとはやっぱりコロナの最中だったっていうのもあって。それを掛け合わせながら、ちょっと言葉遊びもしたっていう感じですね。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
Shing02

どこか物悲しさが漂ってくるピアノのメロディはレクイエム(鎮魂歌)を彷彿させ、それが「Memento」(Memento Mori=死を忘れるな)というタイトルにも繋がっていく。そして、“死”というテーマが軸にありながらも、流れるように展開していくリリックには、Shing02ならでは表現の豊かさや面白さが溢れ出てくる。

その時、たまたま録音モードだったので、ビートを聞いた初期衝動でパッと録って、パッと返して。何ヶ月もかけて緻密にリリックを書くっていう場合もあるけど、今回は良い意味でフリースタイルっぽい感じで出来たなって思います。あと、僕の最近のスタイルは、英語のラップに関しては、どれだけ難しい韻を踏んでやろうじゃなくて、全然シンプルな韻でいいから、韻と韻の間の描写で深いことを言うみたいな感じで。英語だと「between the lines」(=行間を読む)って言うけど、僕の場合は「between rhymes」ですね。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
Shing02

例えば1バース目で、元バスケットボール選手のロバート・オーリーの名前がリリック中に出てくる部分は、Shing02がバスケ好きということを知っているファンであればニヤリとするだろうし、そのすぐ後にはドラマ『Breaking Bad』の主人公、ウォルター・ホワイトの名前も登場する。その二つの名前をしっかりとライミングの流れにハメながら、『Breaking Bad』のストーリーを知っている人であれば、それが今回の曲のテーマとも強くリンクしていることは容易に理解出来るだろう。「Memento」「Lamento」「My mental」という3つの言葉を組み合わせたフックも、実にシンプルな構成ではあるが、その裏には心情の流れというものが描写され、実に深く響いてくる。

・「ロバート・オーリー」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC

・「ブレイキング・バッド」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%89

僕にとってはプロデューサー(DJ MITSU THE BEATS)ありきの曲なんで、ラッパーとしてその曲の雰囲気を壊さずに、出来るだけより深みを与えることをしたいんですよね。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
Shing02
ビートを作る時には、「こういう感じのラップをしてくれるんじゃないかな?」っていうイメージがある程度はあるんですけど。今回に関しては、「こういうテーマで来たんだ?!」って驚いた部分もあったし、自分では思い付かないような深いテーマになったので、やっぱりシンゴさんに頼んでみて良かったなって思いました。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

今回の「Memento」がC.r.e.a.m. Team Recordsからリリースされる自身のプロデュースアルバムの「核となる曲にもなった」というDJ MITSU THE BEATS。この曲を聞けば、彼が“90年代ヒップホップ”というテーマを咀嚼しながら、これからどのようなアルバムを作り上げていくかはおぼろげながら見えてくるだろう。今回は特に90年代のUSのアンダーグラウンドヒップホップシーンの真っ只中にいたShing02が参加したことによって、本当にスペシャルな一曲に仕上がっているのは間違いない。

90年代のヒップホップをテーマにしているだけじゃない、その奥にある、90年代のヒップホップを通った人が作る今の音楽が見えたなって思いますね。この曲を聞いて「90年代ヒップホップじゃない」って言う人もいると思いますけど、自分の狙っていた通りのものが出来て良かったです。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
DJ MITSU THE BEATS

最後に、通算3度目となる二人の共演を経て、改めてShing02から見たDJ MITSU THE BEATSの魅力を語ってもらった。

僕にとっては最高の褒め言葉ですけど、最も安心して聞けるプロデューサー。ミツ君のビートは一つ一つの音がしっかりEQされていて、バランスも取れていて、ちゃんと試行錯誤されているっていうのが伝わってくる。全てにおいて無駄がないというか、もはや職人の域に達してる。しかも、それをとうの昔に達していたわけですから、凄いですよね。
”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records
Shing02

<本文終わり>

文:大前 至(おおまえ きわむ)

音楽ライター。1996年よりライターとしての活動をスタートし、ヒップホップ専門誌『blast』などを中心に執筆。2003年よりロサンゼルスへ拠点を移し、Stones Throwなどアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを軸に取材活動を行いながら、音楽だけでなく、ファッション、アートなど様々な分野の執筆を手がける。2015年に日本へ帰国し、現在も様々な雑誌、ウェブメディアにてヒップホップを中心としたライター活動を行なう。