I Miss 90s Hip-Hop Vol.4 <1991年(後半)>

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I Miss 90s Hip-Hop Vol.4 <1991年(後半)>

1991年後半(7月〜12月)

”みんなで創る”90年代ヒップホップ専門レーベル|C.r.e.a.m. Team Records

次々と誕生するヒップホップクラシック

Closeup shot of vinyl records.

90年代のヒップホップシーンの中でも、極めて濃密な時期とも言える1991年後半。ヒップホップ専門誌『The Source』が5本マイクに認定したアルバムが半年の間に3枚リリースされただけでなく、他にも実に数多くのクラシック作品がこの時期に集中的に誕生している。

デビュー作『People’s Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm』から約1年半後ににリリースされたA Tribe Called Quest(以下、ATCQ)の2ndアルバム『The Low End Theory』(9月24日発売)は、前作で示したATCQならではのオリジナルなスタイルをキープしながら、ファンの期待を遥かに上回るクオリティの高さによって、さらなる衝撃をヒップヒップシーンへ与えた。特にジャズサンプリングの多用は本作の大きな特徴の一つで、ウッドベースとQ-Tipのラップによってスタートする1曲目「Excursions」から高い興奮を与えてくれる。さらにQ-Tip、Phifeそれぞれのラッパーとしての成長も著しく、PVも最高な3つのシングル曲「Check The Rhime」、「Jazz (We’ve Got) 」、「Scenario」はもちろんのこと、アルバムの頭からラストまでぜひ通しで堪能して欲しい。

A Tribe Called Quest「Check The Rhime」

A Tribe Called Quest「Jazz (We've Got) 」&「Buggin' Out」

A Tribe Called Quest「Scenario」

伝説的なプロデューサー/エンジニアであった故Paul Cのもとでビートメイキングを学び、Eric B & Rakimの作品などにも裏方として関わってきたNY出身のLarge Professorがトロント出身のK-Cut、Sir Scratchと組んだグループ、Main Sourceの1stアルバム『Breaking Atoms』(7月23日発売)もまた、『The Low End Theory』と並ぶ1991年後半を代表する一枚だ。Large Professorの手による、さまざまなサンプリングソースを綿密に組み合わせて作られたトラックは、ATCQとも異なる形でヒップホップサウンドを次のレベルへと押し上げ、さらに巧みにビートへと絡みつくLarge Professor自身のラップも良さも本作の価値を絶対的なものにしている。また、Nasの初レコーディング作品となった曲「Live At The Barbeque」が収録されているという点でも重要な意味を持つアルバムだ。

Main Source「Looking At The Front Door」

Main Source「Just Hangin' Out」

Main Source「Peace Is Not The Word To Play」

上記2作とともに『The Source』にて5本マイクに認定されたもう一つの作品がIce Cubeの2ndアルバム『Death Certificate』(10月29日発売)だ。古巣であるN.W.A.を強烈にディスった「No Vaseline」のような曲もあるものの、本作の主題となっているのは人種差別や政治的なメッセージであり、その内容も時に非常に過激なものとなっている。特に韓国系アメリカ人に対する憎悪に満ちた「Black Korea」は、翌年に起きたロサンゼルス暴動へ少なからず影響を与えたとも言われている。当然、この曲は批判も受け、後にIce Cubeはこの曲に対して「誤った曲を作った」ともコメントしているが、ギャングスタラップから表現の幅をより広げことに加え、重厚なサウンド面でのレベルアップも含めて、本作は高い評価を受けている。

Ice Cube「Steady Mobbin'」

Ice Cube「True To The Game」

西海岸ヒップホップの新たな波

Los Angeles

この時期のLAのヒップホップシーンの中で、個人的にも特に衝撃だったのがCypress Hillの登場だ。彼らのデビュー作となった『Cypress Hill』(8月13日発売)は、NY出身のDJ Muggsならではのファンキーなトラックのセンスと、特徴的な声質のB-Realと時おりスペイン語も交えてラップするSen Dogという2MCのコンビネーションが絶妙で、N.W.A.などとはまた異なるギャングカルチャーやマリファナカルチャー、ラテンカルチャーなども打ち出しながら、新たなスタイルのLAヒップホップを作り出した。

Cypress Hill「How I Could Just Kill a Man」

Cypress Hill「Hand On the Pump」

Cypress Hill「The Phuncky Feel One」

Cypress Hill「Latin Lingo」

ウェストコーストヒップホップという括りで言うと、Ice Cubeの従兄弟でオークランド出身のDel The Funky Homosapienの登場もまた、新たな時代の始まりを予感させるものであった。Delの1stアルバム『I Wish My Brother George Was Here』(10月22日発売)は、Ice Cubeがプロデューサーとして関わっているものの、内省的なリリックの世界観なども含めて、スタイル的にはATCQなどNative Tanguesクルーなどに近い。Delの本作での成功は彼自身のクルーでもあるHieroglyphicsの他のグループ、Souls Of Mischiefらのデビューにも繋がっていく。

Del The Funky Homosapien「Mistadobalina」

一方、LAではさらにアンダーグランドなムーブメントがオープンマイクのイベントを中心に動き出しており、そのシーンの中心的存在であったFreestyle Fellowshipが1stアルバム『To Whom It May Concern…』(10月8日発売)を自主制作にてリリースしている。荒削りながらも凄まじい熱気に満ちた作品で、ジャズのセッションにも例えられる彼らのスリリングなマイクリレーは今聴いても実にオリジナリティが高い。

Freestyle Fellowship「7th Seal」

2Pac、ついにソロデビュー

Recording mic

Digital Undergroundが2ndアルバム『Sons Of The P』(10月15日発売)をリリースし、「Kiss You Back」、「No Nose Job」などをスマッシュヒットさせ、その勢いが止まらない中、2Pacがアルバム『2pacalypse Now』(11月12日発売)によってついにソロデビューを果たす。レコーディングにはDigital Undergroundの面々も参加し、サウンド的にもDigital Undergroundのカラーが強いが、「Brenda’s Got A Baby」のような非常にメッセージ性の強い曲も収録していたりと、2Pacにしか表現できないリリックの世界観をすでに作り出している。

Digital Underground「Kiss You Back」

Digital Underground「No Nose Job」

2Pac「If My Homie Calls」

Pac「Brenda's Got A Baby」

2Pac「Trapped」

LAからは他にも新たなアーティストも次々とデビューしており、Vol.1でも紹介したLow Profileを解散したWCが自らのクルーを率いて、WC And The Maad Circle名義でのデビューアルバム『Ain’t A Damn Thang Changed』(9月17日発売)をリリース。さらにDJ Quikのメジャーデビューに続き、彼の一派である2nd II None(『2nd II None』(10月8日発売))、AMG(『Bitch Betta Have My Money』(12月3日発売))、Hi-C(『Skanless』(12月10日発売))が次々とアルバムを発表し、Gファンクのシーンはより強固な基盤を築いていくことになる。

WC And The Maad Circle「Ain't A Damn Thang Changed」

2nd II None「If You Want It」

AMG「Bitch Betta Have My Money」

Hi-C「Sitting In The Park」

Native Tangues一派のさらなる躍進

Hands up at a show

ここで話を東海岸のシーンへ戻そう。ATCQの成功の勢いに乗って、Native TanguesからLeaders Of The New School、続いてBlack Sheepがデビューを果たす。『The Low End Theory』収録の「Scenario」にも参加していたLeaders Of The New Schoolの1stアルバム『A Future Without A Past…』(7月2日発売)では、Busta Rhymesを筆頭にそれぞれのMCの個性とスピード感あるマイクリレーが実に新鮮で、大胆なグループ名が決して伊達ではないことを証明した。Black Sheepもまた、1st『A Wolf In Sheep’s Clothing』(10月22日発売)によってユーモアのセンスなども含めて強い個性を発揮し、彼らの代表曲である「The Choice Is Yours」は未だ色褪せることはない名曲だ。

Leaders Of The New School「Case Of The P.T.A.」

Leaders Of The New School「Sobb Story」

Leaders Of The New School「The International Zone Coaster」

Black Sheep「The Choice Is Yours」

Black Sheep「Flavor Of The Month」

Black Sheep「Strobelite Honey」

Native Tangues一派とはまた別の意味でニュースクールな空気を感じさせたのが、ディズニー傘下のレーベル、Holllywood BasicからデビューしたOrganized Konfusionだ。彼らの1stアルバム『Organized Konfusion』(10月29日発売)には故Paul Cがサウンド面で深く関わったとも言われているが、洗練されたトラックとPharoahe MonchとPrince Poのラップのスリリングな掛け合いが実に素晴らしく、完璧すぎるヒップホップクラシックと言えよう。

Organized Konfusion「Fudge Pudge」

Organized Konfusion「Who Stole My Last Piece of Chicken」

商業的にも大きな成功を収めたのが、グループ名をThe New StyleからNaughty By Natureへと改名してリリースされたアルバム『Naughty By Nature』(9月3日発売)で、同作からは「O.P.P.」が大ヒット曲している。NYらしいハードさも持ちながら、The Jackson 5「ABC」をサンプリングするなどキャッチーなスタイルが受け、幅広い層からの人気を獲得した。

Naughty by Nature「O.P.P.」

Naughty By Nature「Everything's Gonna Be Alright」

Naughty by Nature「Uptown Anthem」

キャッチーという意味では、「Blue Cheese」をスマッシュヒットさせたThe UMC’Sの1stアルバム『Fruits Of Nature』(10月15日発売)や、ヒップホップシーンからの評価は高くないものの、ビルボードの総合シングルチャート、Hot100にて1位を記録した大ヒット曲「Set A Drift On Memory Bliss」を収録したP.M. Dawnの1stアルバム『Of The Heart, Of The Soul And Of The Cross: The Utopian Experience』(8月6日発売)も挙げておきたい。

The UMC's「Blue Cheese」

The UMC's「One To Grow On」

PM Dawn「Set A Drift On Memory Bliss」

もう一人、NYの新人アーティスという括りで紹介しておきたいのが、Ultramagnetic MC’s一派であるTim Dogの1stアルバム『Penicillin On Wax』(11月12日発売)だ。LAのギャングスタラップのムーブメントに対して、ヒップホップ誕生の地であるブロンクスから物申した「Fuck Compton」という曲は当時かなり話題を呼んだが、良い意味でのプロレス感が漂ってくる憎めない一曲である。

Tim Dog「Fuck Compton」

文:大前 至(おおまえ きわむ)

音楽ライター。1996年よりライターとしての活動をスタートし、ヒップホップ専門誌『blast』などを中心に執筆。2003年よりロサンゼルスへ拠点を移し、Stones Throwなどアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを軸に取材活動を行いながら、音楽だけでなく、ファッション、アートなど様々な分野の執筆を手がける。2015年に日本へ帰国し、現在も様々な雑誌、ウェブメディアにてヒップホップを中心としたライター活動を行なう。