デビュー作『People’s Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm』から約1年半後ににリリースされたA Tribe Called Quest(以下、ATCQ)の2ndアルバム『The Low End Theory』(9月24日発売)は、前作で示したATCQならではのオリジナルなスタイルをキープしながら、ファンの期待を遥かに上回るクオリティの高さによって、さらなる衝撃をヒップヒップシーンへ与えた。特にジャズサンプリングの多用は本作の大きな特徴の一つで、ウッドベースとQ-Tipのラップによってスタートする1曲目「Excursions」から高い興奮を与えてくれる。さらにQ-Tip、Phifeそれぞれのラッパーとしての成長も著しく、PVも最高な3つのシングル曲「Check The Rhime」、「Jazz (We’ve Got) 」、「Scenario」はもちろんのこと、アルバムの頭からラストまでぜひ通しで堪能して欲しい。
A Tribe Called Quest「Check The Rhime」
A Tribe Called Quest「Jazz (We've Got) 」&「Buggin' Out」
A Tribe Called Quest「Scenario」
伝説的なプロデューサー/エンジニアであった故Paul Cのもとでビートメイキングを学び、Eric B & Rakimの作品などにも裏方として関わってきたNY出身のLarge Professorがトロント出身のK-Cut、Sir Scratchと組んだグループ、Main Sourceの1stアルバム『Breaking Atoms』(7月23日発売)もまた、『The Low End Theory』と並ぶ1991年後半を代表する一枚だ。Large Professorの手による、さまざまなサンプリングソースを綿密に組み合わせて作られたトラックは、ATCQとも異なる形でヒップホップサウンドを次のレベルへと押し上げ、さらに巧みにビートへと絡みつくLarge Professor自身のラップも良さも本作の価値を絶対的なものにしている。また、Nasの初レコーディング作品となった曲「Live At The Barbeque」が収録されているという点でも重要な意味を持つアルバムだ。
ウェストコーストヒップホップという括りで言うと、Ice Cubeの従兄弟でオークランド出身のDel The Funky Homosapienの登場もまた、新たな時代の始まりを予感させるものであった。Delの1stアルバム『I Wish My Brother George Was Here』(10月22日発売)は、Ice Cubeがプロデューサーとして関わっているものの、内省的なリリックの世界観なども含めて、スタイル的にはATCQなどNative Tanguesクルーなどに近い。Delの本作での成功は彼自身のクルーでもあるHieroglyphicsの他のグループ、Souls Of Mischiefらのデビューにも繋がっていく。
Del The Funky Homosapien「Mistadobalina」
一方、LAではさらにアンダーグランドなムーブメントがオープンマイクのイベントを中心に動き出しており、そのシーンの中心的存在であったFreestyle Fellowshipが1stアルバム『To Whom It May Concern…』(10月8日発売)を自主制作にてリリースしている。荒削りながらも凄まじい熱気に満ちた作品で、ジャズのセッションにも例えられる彼らのスリリングなマイクリレーは今聴いても実にオリジナリティが高い。
Freestyle Fellowship「7th Seal」
2Pac、ついにソロデビュー
Digital Undergroundが2ndアルバム『Sons Of The P』(10月15日発売)をリリースし、「Kiss You Back」、「No Nose Job」などをスマッシュヒットさせ、その勢いが止まらない中、2Pacがアルバム『2pacalypse Now』(11月12日発売)によってついにソロデビューを果たす。レコーディングにはDigital Undergroundの面々も参加し、サウンド的にもDigital Undergroundのカラーが強いが、「Brenda’s Got A Baby」のような非常にメッセージ性の強い曲も収録していたりと、2Pacにしか表現できないリリックの世界観をすでに作り出している。
Digital Underground「Kiss You Back」
Digital Underground「No Nose Job」
2Pac「If My Homie Calls」
Pac「Brenda's Got A Baby」
2Pac「Trapped」
LAからは他にも新たなアーティストも次々とデビューしており、Vol.1でも紹介したLow Profileを解散したWCが自らのクルーを率いて、WC And The Maad Circle名義でのデビューアルバム『Ain’t A Damn Thang Changed』(9月17日発売)をリリース。さらにDJ Quikのメジャーデビューに続き、彼の一派である2nd II None(『2nd II None』(10月8日発売))、AMG(『Bitch Betta Have My Money』(12月3日発売))、Hi-C(『Skanless』(12月10日発売))が次々とアルバムを発表し、Gファンクのシーンはより強固な基盤を築いていくことになる。
WC And The Maad Circle「Ain't A Damn Thang Changed」
2nd II None「If You Want It」
AMG「Bitch Betta Have My Money」
Hi-C「Sitting In The Park」
Native Tangues一派のさらなる躍進
ここで話を東海岸のシーンへ戻そう。ATCQの成功の勢いに乗って、Native TanguesからLeaders Of The New School、続いてBlack Sheepがデビューを果たす。『The Low End Theory』収録の「Scenario」にも参加していたLeaders Of The New Schoolの1stアルバム『A Future Without A Past…』(7月2日発売)では、Busta Rhymesを筆頭にそれぞれのMCの個性とスピード感あるマイクリレーが実に新鮮で、大胆なグループ名が決して伊達ではないことを証明した。Black Sheepもまた、1st『A Wolf In Sheep’s Clothing』(10月22日発売)によってユーモアのセンスなども含めて強い個性を発揮し、彼らの代表曲である「The Choice Is Yours」は未だ色褪せることはない名曲だ。
Leaders Of The New School「Case Of The P.T.A.」
Leaders Of The New School「Sobb Story」
Leaders Of The New School「The International Zone Coaster」
Organized Konfusion「Who Stole My Last Piece of Chicken」
商業的にも大きな成功を収めたのが、グループ名をThe New StyleからNaughty By Natureへと改名してリリースされたアルバム『Naughty By Nature』(9月3日発売)で、同作からは「O.P.P.」が大ヒット曲している。NYらしいハードさも持ちながら、The Jackson 5「ABC」をサンプリングするなどキャッチーなスタイルが受け、幅広い層からの人気を獲得した。
Naughty by Nature「O.P.P.」
Naughty By Nature「Everything's Gonna Be Alright」
Naughty by Nature「Uptown Anthem」
キャッチーという意味では、「Blue Cheese」をスマッシュヒットさせたThe UMC’Sの1stアルバム『Fruits Of Nature』(10月15日発売)や、ヒップホップシーンからの評価は高くないものの、ビルボードの総合シングルチャート、Hot100にて1位を記録した大ヒット曲「Set A Drift On Memory Bliss」を収録したP.M. Dawnの1stアルバム『Of The Heart, Of The Soul And Of The Cross: The Utopian Experience』(8月6日発売)も挙げておきたい。
The UMC's「Blue Cheese」
The UMC's「One To Grow On」
PM Dawn「Set A Drift On Memory Bliss」
もう一人、NYの新人アーティスという括りで紹介しておきたいのが、Ultramagnetic MC’s一派であるTim Dogの1stアルバム『Penicillin On Wax』(11月12日発売)だ。LAのギャングスタラップのムーブメントに対して、ヒップホップ誕生の地であるブロンクスから物申した「Fuck Compton」という曲は当時かなり話題を呼んだが、良い意味でのプロレス感が漂ってくる憎めない一曲である。